頚椎捻挫(むち打ち症・外傷性頚部症候群)になった方

 頚椎捻挫(頚部の筋線維,靭帯,椎間関節包等の軟部組織が過度に伸びたり断裂したりすることによって生ずるもので,むち打ち損傷の70%以上がこの類型といわれています。症状としては,首回りや後頭部,肩部の痛みや頸椎の運動制限等が生じます。)は,読んで字の如く,「捻挫」です。足首の捻挫がそうであるように,通常は,3週間から3カ月もあれば治癒に至るものですから,過度に不安を抱く必要はありません(ただし,椎間板ヘルニア,変形性頚椎症,後縦靭帯骨化症といったもともとの素因があるような人や,神経根損傷や脊髄損傷がある場合は別です。)。

 

 ただ,他人にやられた損傷は,余計に痛く感じることや,加害者との賠償問題もあって,心因性要因が強く働きやすく,ときに症状が長引くこともあります。

 

 また,椎間板ヘルニア,変形性頚椎症,後縦靭帯骨化症といったもともとの素因があるような人も症状が長引くことがあります。

 

 加害者側の保険会社からは,3ヶ月を過ぎたころから,治癒に至っている時期なので,治療を打ち切って欲しいとか治療費の支払いをストップするとか言われることがあると思います。その場合には,本当に,治療を打ち切ってよいのかどうか,主治医に,十分診察してもらう必要があります。

 

保険会社等から治療を打ち切ると言われている方へ

 頚椎捻挫の場合には,多くの場合は,3カ月程度までに治癒していくものですが,難治例の場合には,6カ月は治療をしていないと,後遺障害の等級認定を受けることはまず無理ですので,保険会社に治療の必要性を主張して6カ月間は治療を認めてもらうべきです。

 

 高次脳機能障害については,2年近くまでリハビリテーションの効果が認められていますので,リハビリテーションの効果が上がっているのに,2年未満で症状固定にしろとか,治療費を打ち切るというのは不当です。医師や弁護士に相談して,2年くらいはリハビリテーションを続けるべきでしょう。

 

 それ以外の傷害については,概ね1年くらいまでの期間が症状固定の目安にされる場合が多いといってよいと思いますが,一人一人の顔が違うように,一人一人の症状も違いますので,医師や弁護士に十分相談することをお勧めします。

 

椎間板ヘルニアだから,賠償金を減額すると言われている方へ

 椎間板とは,背骨のクッションの役目を果たしている軟骨のことで,背骨の椎体と椎体の間に存在しています。

 

 椎間板は,繊維輪(周辺の部分)と髄核(中心部分)で構成されていますが,「椎間板ヘルニア」は何らかの理由で,その繊維輪が圧排されて,髄核がとび出してきた状態のことをいいます。このヘルニアそのものは,多くは加齢性のもので,交通事故以前から存在していたもので,事故直後に頚椎捻挫によって生じるものではありません。

 

 ただ,椎間板ヘルニアがあるからといって,直ちに,交通事故と頚椎捻挫の相当因果関係が否定されたり,賠償額が減額されたりするわけではありません。

 

 もっとも,ヘルニアにより,脊柱管が大きく狭窄していたり,事故前から症状があったり,頚椎前方固定術等を受けたようなときには,ある程度素因減額されることがあります。素因減額の程度は,事故前の症状の有無・程度,ヘルニアによる脊柱管の圧迫の程度,事故の衝撃の大きさ,事故後の症状の程度・推移等によって違ってきますが,2割から場合によっては5割を超える減額になることもあります。ただ,一般的に言って,保険会社の減額主張は大きい傾向にありますので,医師と弁護士が十分に協力し合って,過度に減額されないようにする必要があります。

症状固定と言われている方へ

 頚椎捻挫の場合には,多くの場合は,3カ月程度までに治癒していくものですが,難治例の場合には,6カ月は治療をしていないと,後遺障害の等級認定を受けることはまず無理ですので,保険会社に治療の必要性を主張して6カ月間は治療を認めてもらうべきです。高次脳機能障害については,2年近くまでリハビリテーションの効果が認められていますので,リハビリテーションの効果が上がっているのに,2年未満で症状固定にしろとか,治療費を打ち切るというのは不当です。医師や弁護士に相談して,2年くらいはリハビリテーションを続けるべきでしょう。

 

 それ以外の傷害については,概ね1年くらいまでの期間が症状固定の目安にされる場合が多いといってよいと思いますが,一人一人の顔が違うように,一人一人の症状も違いますので,医師や弁護士に十分相談することをお勧めします。

 

CRPS・RSDの認定が受けられない方へ

 CRPS(Complex Regional Pain Syndrome),日本語では,「複雑性局所疼痛症候群」とか「複合性局所疼痛症候群」とか言われています。昔は,RSDとかカウザルギーとか言われていました。

 

 CRPSの診断基準については,「2005年世界疼痛学科における診断基準」,「2005年IASPによる臨床目的の診断基準」が公表されていますが,診断基準としては曖昧で,しかも,CRPSを特異的に診断する検査もないことから,CRPSの診断は非常に難しいことになります。

 

 ただ,自賠責保険の認定基準では,骨萎縮(ズディク症候群)がない限り,後遺障害の等級認定が受けられません。しかし,医学的には,骨萎縮がなくても,CRPS(RSD)と診断することが可能です。裁判所も,骨萎縮(ズペック症候群)がなくても,CRPS(RSD)として認定をしてくれる場合があります。

 

 CRPS(RSD)の認定が受けられないと,後遺障害としては,どんなに重い症状が残っていても,神経症状としてせいぜい12級にしかならないのですが,CRPS(RSD)が認定されると,その症状によって9級・7級・5級・3級・2級・1級といった認定が可能になってきて,賠償額は,数倍に跳ね上がってきます。

 

嗅覚脱出・味覚脱出になった方へ

 自賠責保険では,鼻の骨折がないと,嗅覚脱出(臭いがしない)・味覚脱出(味がしない)は後遺障害として認定してもらえない傾向があります。

 

 しかし,顔面を強く打撲したときには,骨折がなくても,嗅覚脱出・味覚脱出は生じます。事故当初は,他の損傷箇所の痛み等により,嗅覚脱出・味覚脱出に気付かず,ある程度症状が落ち着いてきてから,嗅覚脱出・味覚脱出に気付くというケースも多く,なかなか認定が受けられないというケースがあります。

 

 事故前に,嗅覚脱出・味覚脱出になるような病気が全くなく,耳鼻科的検査で嗅覚脱出・味覚脱出が認められれば,骨折がなくても,事故直後から症状を訴えていなくても,裁判上は,後遺障害として認定されています。裁判をしないと認定されないというのが残念ですが,鑑定のために,どこかの大学病院等に検査に行かなければならないということはありますが,裁判自体は,それ程大変な裁判ではありません。

高次脳機能障害になられた方へ

 高次脳機能障害についての一般的な説明は,福井県高次脳機能障害支援センター(http://www.f-gh.jp/koujinou/)のホームページをご覧ください。

 

 就労前の幼少期に高次脳機能障害になった場合には,とりわけ注意が必要です。高次脳機能障害により,対人関係の構築がうまくできなくなることがあります。幼少期であれば,好まない人間とは接触を避ければいいのですが,就労した場合には,そうはいきません。嫌いな上司だからといって無視するわけにはいきません。できれば,示談は,就労して後遺障害による影響がどれだけあるかを見極めてからしたいものですが,就労までに10年もあると,そんなわけにもいきません。

 

寝たきり等介護が必要になってしまった被害者の家族の方へ

 重度後遺障害で介護が必要になってしまった場合は,本人はもちろん,ご家族にも,経済的にも,肉体的にも,精神的にも,大変な負担がかかります。

 

 介護が必要になった場合の賠償金額は,保険会社と裁判所とでは,非常に大きな差があります。

 

 とりわけ,介護料についての金額が大きく違ってきます。要介護の程度,年齢,介護保険の利用の有無等によって金額が違ってきますので,一概にはいえませんが,当事務所が扱った事例で,症状固定時満51歳の女性の後遺障害第1級(常時介護)事案で,保険会社提示金額金2496万円に対して,裁判所認定金額は,金6829万円でした。これは,将来の介護料だけです。全体の金額では,保険会社提示金5381万円に対して,裁判所認定金額は金1億5651万円(遅延損害金を含む)でした。

 

 なお,介護が必要になった場合に,忘れてならないのは,独立行政法人自動車事故対策機構NASVAの介護料支給です。自動車事故が原因で,脳,脊髄又は胸腹部臓器を損傷し,重度の後遺障害を持つため,移動,食事及び排泄など日常生活動作について常時又は随時の介護が必要な状態になった場合には,同機構から,介護料が金13万6880円を上限に支給されます。手続等の詳細は,こちらをご覧ください。

 

交通事故被害者の裁判費用・弁護士費用について

 「裁判をして賠償金が増えても,時間はかかるし,裁判費用や弁護士費用に食われてしまって,何をやっているか分からないですよ。」と言う保険会社等がたまにありますが,これは全くの嘘です。結論から言って,被害者が裁判をするのに,裁判費用・弁護士費用の負担は全くないか,ほとんどありません。

 

 なぜ,負担がないのかというと,裁判の場合には,被害者に賠償が認められる金額の1割が弁護士費用として加算されて損害認定されますので,そのほとんどを加害者から回収できることになり,実際に,被害者が負担する弁護士費用はほとんどないことになるからです。

 

 裁判費用のうち,印紙代については,大部分を加害者から回収できます。

 

示談・判決等を終わった方へ

 加害者との示談・判決等で紛争の解決が終わっても,その示談・判決の中で,被害者に過失が認められている場合には,被害者又はその同居の家族等が加入している自動車保険の人身傷害保険により,被害者の過失分の損害の補償を受けることができます。忘れずに,加入している自動車保険会社に相談してください。

 

 また,自動車に搭乗中の事故の場合には,搭乗者傷害保険金を受けることもできます。未受領の場合には,請求しておきましょう。入通院給付金付きの生命保険に加入している場合には,入通院給付金が出ますので,その請求も忘れずに。

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