高次脳機能障害になられた方へ

 高次脳機能障害についての一般的な説明は,福井県高次脳機能障害支援センター(http://www.f-gh.jp/koujinou/)のホームページをご覧ください。

 

 就労前の幼少期に高次脳機能障害になった場合には,とりわけ注意が必要です。高次脳機能障害により,対人関係の構築がうまくできなくなることがあります。幼少期であれば,好まない人間とは接触を避ければいいのですが,就労した場合には,そうはいきません。嫌いな上司だからといって無視するわけにはいきません。できれば,示談は,就労して後遺障害による影響がどれだけあるかを見極めてからしたいものですが,就労までに10年もあると,そんなわけにもいきません。

 

 平成23年8月に横浜で開催された日弁連の交通事故相談センターの高次脳機能障害の研修では,交通事故から18年も経過してから高次脳機能障害による人格変化による影響が出てきて,家族崩壊になったケース(被害者は,大学在学中に交通事故にあい,高次脳機能障害になるも,もともとの能力が高い人であったために,就職はできる。しかし,高次脳機能障害のために,就職して暫くすると,上司・同僚を問わず,度をすぎて馴れ馴れしい態度をとるようになり,解雇される。しかし,能力が高いものだから,すぐに再就職できるが,また,上司・同僚を問わず,度をすぎて馴れ馴れしい態度をとるようになり,解雇される。このことを何回か繰り返すうちに,被害者は,やけになって,ギャンブルに手を出すようになり,家族に暴力をふるうようにもなったというケース)が報告されていました。このケースでは,当然ながら,被害者は,満足な補償は得られていなかったようで,被害者とその家族は,経済的にも,精神的にも,大変に苦しい生活を余儀なくされているようです。

 

 高次脳機能障害が疑われる場合には,まず,高次脳機能障害をしっかりと理解している医師の診断を受け,高次脳機能障害と診断されたなら,その医師の指導の下で,症状に応じた治療(リハビリテーション)を受けることが必要です。個人差もありますが,2年くらいは根気よくリハビリテーションを続けた方がよいようです。私の知る限りでは,福井県では,福井県高次脳機能障害支援センター が一番だと思っています。同センターには,家族会もあり,同じ被害に遭った人たちの横の繋がりができて,情報交換もできますし,精神的安定を得ることもできます。高次脳機能障害でお悩みの方には,同センターを紹介させて頂きます。

 

 リハビリテーションが終わって症状固定になると,後遺障害認定,そして示談になってきますが,高次脳機能障害の後遺障害認定については,非常に難しい問題があります。上記のように,就労前の被害者の場合には,就労による影響をどう予測するかといった困難な問題がありますし,高齢者の場合は,認知症等との鑑別をどうするか,もともとの認知症があった場合には,既存障害としてどのように見るのかという問題があります。さらに,近年では,軽症頭部外傷による高次脳機能障害の認定が大きな問題になっています。

 

 札幌高等裁判所の平成18年5月26日判決は,自賠責保険及び一審判決で,高次脳機能障害を認めず,12級と認定して,一審判決では,金237万円程の損害賠償しか認められなかった軽症頭部外傷の事案で,後遺障害3級3号に該当すると認定し,約1億1793万円の支払を認めています。約50倍の金額になっています。高次脳機能障害が認められるかどうかで,こんなにも違うなんて驚きですね。控訴審を担当した弁護士の努力と熱意には頭が下がります。

 

 この判決がきっかけで,軽症頭部外傷により高次脳機能障害になるのかという議論が活発になされています。高次脳機能障害が認められて3級が認定されれば,1億円を超える賠償金額になり,高次脳機能障害が認められずに12級だと数百万円程度の結果になります。まさに,天国と地獄ですね。

 

 この点については,自賠責保険における高次脳機能障害認定システム検討委員会が,平成23年3月に「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」という報告書を公表して,一定の見解を示していますので,関心のある方は,こちらをご覧ください。