加害者が任意保険に加入していない場合
結論から言って,加害者が任意保険に加入していなくても,何らかの形で保険の利用が可能であり,賠償を得られないということはまずありませんので,ご安心ください。
ところが,実際には,十分な知識がないために,自賠責保険以上の回収ができなかったという被害者はかなりいるように思われます。
弁護士でも,加害者が任意保険に加入しておらず,資力もないと,回収は困難と言う人が多いです。日弁連の「交通事故損害額算定基準(いわゆる青本)」という交通事故に関する教科書的な本がそうなっているため,多くの弁護士があきらめてしまいます。そのため,自賠責保険以外には,ほとんど支払を受けられない被害者がいます。
しかし,本当は,加害者が任意保険に入っていなくても,補償を受けられない被害者はほとんどいないはずです。
加害運転手が他人の車を運転していたような場合は,加害者の車の「他車運転危険担保特約」を利用して補償を受けることができます。また,あなた又はあなたの同居の家族が所有する自動車の任意保険の「無保険車傷害保険」「人身傷害保険」を利用して,加害者が任意保険に加入していなくても,自分の自動車保険から補償を得られる場合がほとんどです。あきらめる必要はありません。(なお,弁護士費用担保特約に入っているのに,知らない人も多いです。)
ちなみに,昨年,私があるところの交通事故相談を担当していたときに,相談にきた女性は,「長男が車を運転中にセンターオーバーをしてしまい,交通事故を起こした。長男も,相手方も,植物人間状態に近い状態になってしまったが,長男の車に任意保険が入っていなかったために,相手方の父親から『治療費等をどうしてくれるんだ。補償はどうしてくれるんだ。』と毎日のように責めたてられて,困っています。どうしたらいいでしょう。」ということでした。
その女性は,長男の看病と被害者の父親の執拗な叱責とで,すっかりやつれ果てて,憔悴しきっていました。
それまでに,3人の弁護士のところに相談に行ったものの,いずれも,母親に損害賠償責任はないので,「自分には責任はないし,とても賠償できる資力もないので,すみません。」と謝るしかないという程度の助言しか得られなかったと言うことでした。
私は,その相談者に「被害者の車に,無保険者傷害保険や人身傷害保険というのがおそらくついているだろうから,被害者の父親に,この保険を利用すれば,治療費のみならず,休業補償や慰謝料その他一切の損害賠償を受けることができるので,被害者の車に加入している保険会社に相談に行ってもらうようにお願いしなさい。もちろん,その保険会社から長男に対する求償はありますが,お母さんに対して求償することはありませんから,安心ですよ。」と助言しました。
その後,お礼の電話があり,順調に事が運んだとのことでした。
このケースの場合は,何人もの弁護士に相談に行き,たまたま,救済されましたが,このような事案の場合に,本来は救済されるのに,ちょっとした知識がないために,あるいは,その知識を活用できないために,救済されない人の数はかなり多いと推測されます。
ちょっとした知識を活用できるかどうかが運命の別れ道です。どんなに保険の知識を持っていても,どんなに損害賠償の知識を持っていても,それを活用できないようでは意味がありません。知識の活用,「法律を行動規範として活用する。」ことが大事なのです。
もう一度いいます。
加害者が無保険であっても,補償を受けられないケースはほとんどありません。決してあきらめずに,ご相談ください。