交通事故で家族を亡くされた方
ご家族を亡くされて,さぞかしお心落としのことと思います。ただ,どんなに辛く,寂しい思いをしていても,解決しなければならないことは解決しなければなりません。
死亡事故の場合に限らず,保険会社が提示する賠償金額と裁判所が認定する金額とでは,倍近い差があります。その差は,数千万円の違いが出るものです。しかも,弁護士費用は,ほとんど相手方から回収できるのですから,ご家族の経済的安定を確保するために,裁判することをお勧めしています。
また,「死人に口なし。」で,加害者が虚偽の事故状況を説明することが,よくみられます。この場合は,死者の名誉のためにも,裁判が必要です。
被害者死亡の事件では,加害者の虚偽の供述で加害者が不起訴処分になってしまう。これでは,被害者は浮かばれません。加害者に対して,虚偽の事故状況を警察に申告するように助言した保険会社もあります。その事例では,加害者の父親と保険会社が,加害者に虚偽の事故状況の申告をさせたのですが,加害者本人が良心の呵責に耐えきれずに,後日,被害者宅にこれまで嘘をついていましたと謝罪にきたから真相が分かったのですが,こういう良心のある加害者ばかりではありません。多くの加害者が虚偽の事故状況申告で刑事責任を免れていることは,厳然たる事実です。
ただ,「死人に口なし。されど,客観的事実は,真実を語りかけてくる。」「客観的事実は,当事者の供述に勝る。」「救済されない被害者があってはならない。救済されない被害者はいないはず。」「はず。」というところが問題ですが…。
加害者が故意に嘘をつくわけではないにしても,自己に有利なように記憶がすりかわってしまうということはよく見られる現象です。それで,加害者が不起訴処分になったのでは,これまた被害者は浮かばれません。
事故現場,事故状況,当事者や目撃者の証言を入念に検討して,どのような事故だったのかをあぶりだしてくる作業が必要です。当事者や目撃者の証言は,一瞬の事故についての印象にすぎないし,当事者は時間がたつにつれて自己に有利な証言内容に変化することが多いことから,客観的事実や他者の証言等を比較検討して信憑性があるかどうかを十分に吟味しなければなりません。
しかし,刑事事件の実際では,検察官に交通力学等の専門的知識がなかったり,多忙であったりして,なかなかそこまではしてもらえないという現実があります。
そのために,検察審査会・被害者参加制度がありますが,必ずしも,十分に機能しているとはいえません。ただ,少しずつ変わってきてはいます。真実は,客観的事実から見えてくるものです。ただ,客観的真実が見つけられずに,被害者が泣いている事例が多いのも現実ですが,それでも,あきらめてはいけません。「必ず,真実は見えてくる。」という強い気持ちで戦っていくことも,何も言えない死者のために必要なときもあります。
これまでにも,直進バイク(運転手死亡)と右折自動車の事例で,右折自動車の運転手が,停止しているところへ直進バイクがぶつかってきたと主張していて,刑事事件では,そのような認定になってしまっていましたが,バイクの損傷が,右横にあったことから,民事事件では,右折自動車は走行中であったとの認定を獲得することができました。
また,右折バイク(運転手死亡)と対向直進自動車の事例では,直進自動車の運転手が,自分は黄色信号で交差点に進入したので,右折バイクの過失の方が大きいと主張していて,刑事裁判でもそのような認定になっていましたが,民事裁判では,その点を徹底的に洗い直し,直進自動車が交差点に進入したときの信号は赤だったとの認定を勝ち取り,直進自動車の一方的過失だという判決を勝ち取りました。右折バイクと対向直進自動車の事故で,対向直進自動車の一方的過失となるのは珍しい事例ですが,ご遺族があきらめずに戦ったからこその結果です。
ただ,客観的事実が少ないと,加害者側の虚偽を見破ることは非常に困難ですが,虚偽が疑われるのに,「死人に口なし。」で何もしないであきらめるわけにはいかないと思います。